ようやく涼しくなってきましたね! 待ち遠しかったお彼岸です。だって、暑さ寒さも彼岸までって言うでしょ? 今年の秋分の日は9月22日。おお、シルバーウィークですね。シルバーっつったらシルバーリボン。うららさんの記事で初めて知りました。
買おうかなー。どーしよーかなー。えい、ポチっとな。はい、買っちゃった。えへ。
さて、今日は本のご案内です。
今回は「逃亡くそたわけ」(絲山(いとやま)秋子)です。
なにこのタイトル。逃亡? くそ……? なにから逃げるの? って思われると思うんですけど、若者が精神病院から逃亡する話です。はい。
自殺未遂を図り、幻聴と躁の症状で入院している花ちゃん(21歳女性)は、
「どうしようどうしよう夏が終わってしまう。21歳の夏は一度しか来ないのにどうしよう。」
と考えた挙げ句、病院で夏を終わらせるのは絶対に嫌という理由で、病院を抜け出します。同じく入院していた、なごやん(24歳男性うつ病)を誘って。
この物語は、博多~大分~熊本~宮崎~鹿児島まで、二人のひと夏の珍道中を描いた、明るくユーモアあふれる小説です。
こちらは過去、直木賞候補に上がって落選したのですが、その際、選考委員の渡辺淳一氏(故人。代表作は「失楽園」など)に、「肝腎の精神病者が普通の健常者にしか見えないし、健常なのに精神病者にされたのだとしたら、その背景をしっかり描くべきである。」と評されました。……私はこれはちょっと見当違いな感想だなぁって思ってます。
精神障害の患者さんって、見た目は健常な人が多いじゃないですか。それでも苦しんでいるわけですし、だから苦しい場合もありますよね。小説でいかにも挙動不審な行動描写をすればいいってもんじゃないと思うし、うーん、この話、病の描写ありますし伝わりますけどね。渡辺淳一氏は医者でしたし、理解されると思ってたんですけどねぇ……って、彼、整形外科だわ。まぁ……いいや。はい。
(のちに絲山さんは、直木賞(エンタテインメント小説)ではなく、芥川賞(純文学小説)を受賞されました。)
さて、作者の絲山秋子さんは、自らが双極性障害(躁うつ病)であると公表しています。発症してから小説を書き始めたそうです。
(双極性障害だという作家は割といます。北杜夫、中島らも、諏訪 哲史、ヘミングウェイなどがそうです。ほかにも双極性障害なのではないか、と言われている作家も多く存在します。)
だからね、私には余計にこの小説の中の花ちゃんたちがリアルに見えてくるんです。(でも病人でないと書けないとは言ってないよ!)
病を得た若者の焦燥感や切なさが描かれ、でもさらりとしていて、みずみずしい青春も行間からあふれてきます。病人を扱ったからって重々しくなる必要は無いですよね。ふたりの軽妙なやりとりの合間に吐露される病気の苦しさは、九州各地の景色とともに印象深く胸に残ります。
そうそう、この小説は2007年に映画化もされました。花ちゃんは美波さん、なごやんは吉沢悠さんでした。美波さんの演技がとても上手で、光っていたのをよく覚えています。あまり知られていないのが残念ですね。